漁師カレンダーの歩みを描いた「海と生きる」について、インタビューが行われたのは鈴木アユミさんのご自宅。
ふと、アユミさんが飾っていた写真を見せてくれました。
青春だった「漁師カレンダー」
アユミ
私、ずっと飾ってるの、これ
えま
あははは。これ最高ですよね。
アユミ
2024年版11月のカレンダーの背景と同じなんです。アテンドした時に瀧本幹也さんに撮ってもらった写真。
― わあ、これは宝物ですね!
えま
なんか、本当にかけがえのない青春だったな。大人になってからの青春。
アユミ
めっちゃ夜中に起きて駆け回って大変だったけど、本当に青春だった。
えま
漁師さんに笑顔になってもらうために、こっちもはしゃいだり、盛り上げたりしてね!
ー 船は暗いうちに動き出したりするから、夜中に起きたり撮影は大変だったんでしょうね。思い出深いのはどんな場面でしたか?
アユミ
漁師さんへの出演交渉が印象深いですね。
書籍でも紹介されている日門定置網漁の須賀良央さんという漁師さんが私の同級生なんですが、カレンダー撮影の交渉にすごく協力してくれて。次はどの漁師さんにあたるか一緒に作戦を立てたりしていました。
人柄ごとにどう交渉すればいいかアドバイスをくれて。あの人はさりげない会話からアプローチしたほうがいい、とか、最初に「つばき会」と名乗るべきか、名乗らないほうがいいか、とか。
えま
戦略的!
アユミ
私が交渉に行く時間にあわせて、さりげなく須賀さんも漁師さんのそばに立っててもらったりしてました。
― 書籍の中でも漁師カレンダー撮影現場の調整を、徐々にアユミさんとえまさんのふたりに託されていく様子が描かれていましたね。「撮影に協力してくれる若手漁師を紹介してほしい」と頼られている姿が印象的でした。
ずっと気仙沼に暮らしてきた先輩たちも漁師さんとの関係は密なのに、IターンUターン組のふたりが頼られたのは、どうしてなんですか?
アユミ
紀子さんと和枝さんは、昔から仕事の取引の関係もあって遠洋マグロ船、カツオ船、サンマ船など、大きい船の方々とつながりや信頼関係があって。
でも気仙沼にはいろんな漁師さんがいて、たとえば家族単位で働くことが多い養殖漁師さんとか、日帰りで漁をする定置網とか、突きん棒漁などの沿岸漁業の漁師さんなど、小型から中型の船の漁師さん達とは私たちも付き合いが多かったので、任せてもらった形です。
えま
私は住んでいる唐桑地区の漁師さんたちと近しかったし、アユミさんはアユミさんで元々が唐桑生まれなので、昔から顔馴染みの漁師さんがたくさんいたんです。
― なるほど。大型船とは違う個人の漁師さん達がたくさんいますもんね。そして撮影が進むごとに漁師さんのつながりも増えていきますしね。
漁師カレンダーとつばき会をひっぱってきたもの
ー 「漁師カレンダー」を中心に動いていく中で、「気仙沼つばき会」にふたりのような若手が加わり、活動が変化し広がっていくのが、書籍を読んで感じられました。目の前の具体的な目標にむかって、人を深く巻き込んで、広がっていくような。
ふたりから見て、「漁師カレンダー」のプロジェクトはどうしてそんなに多くの人を巻き込んでいく力を持ったのだと感じますか?
えま
まず最初の思いがはっきりしていて、分かりやすいですよね。
「世界に通用するカレンダーを作っぺ」とか。「おらいのスーパーヒーローを出そう」みたいな最初の思い。
アユミ
カレンダーというシンプルな手法だけど、「漁師さん」を介して大切なメッセージが心に響きますよね。
えま
やっぱ、つばき会をひっぱっている3人、ダブルかずえさんと紀子さんは、何か、本当に嘘いつわりないじゃないですか。
アユミ
うんうん、ないない。分かりやすい。
えま
彼女達が話す時は、常に本当に心から思っていることだから。それが、たとえば1作目をプロデュースしてくださったサン・アドの坂東(美和子)さんはじめ、2作目からのプロデューサーの(竹内)順平くんとか、写真家の皆さんを巻き込んでいく力になったんだろうなって感じます。
どんな著名な写真家さんに対しても「私たちはこうなんです」みたいなことを貫き通せるのは、軸がぶれないからなんだろうなと思いました。
― 大事にしたいものがハッキリしているから。
アユミ
さらに、10年というスパンをちゃんと紡いでこれたのって、やっぱりクリエイティブチームと、「ど素人集団」つばき会を繋ぐ役割を担ってくれた、プロデューサーの順平くんが大きくて。
ー 書籍にも「プロデューサーはアルバイト」と紹介されていましたね。
アユミ
そうそう。25歳で、サン・アドさん、藤井保さんが手がけた第1作目のバトンを受け取って、相当プレッシャーだったと思うんです。
でも、紀子さん、ダブルかずえさんもちゃんと掴んで、言わなきゃいけないところは順平くんなりの感性で誠意を持ってアプローチしてくれたからこそ、この漁師カレンダーが成り立ってて。毎回繊細にまっすぐにアプローチしてくれて、すごいなと思います。
多分、そこもつばき会のメンバーと順平くんの相性がめちゃくちゃ良かったんだと思います。そこにライターの唐澤さんやいろんなカメラマンさんがいて。何か凄い、化学反応が毎回起きて、みたいな感じでしたよね。
(④へつづく)