気仙沼漁師カレンダーの10年の歩み、つばき会の誕生から広がりまでを追ってくださった「海と生きる」(唐澤和也さん著)。
「つばき会のルーキー」根岸えまさん、鈴木アユミさんにお話を聞く最終回です。漁師カレンダーの撮影現場に携わり、とりわけ思い入れの強いふたりは、この本をどんな人たちに手に取ってもらいたいのでしょう。
「ど素人」が漁師カレンダーを作ることができた道筋を知ってもらいたい
ー 改めて、本はどんな方に読んで欲しいですか?
アユミ
地元・気仙沼の人たちにも読んでもらいたいですね。どんな思いで「漁師カレンダー」が始まったのか、知ってもらいたいです。
えま
漁師カレンダーを買ってくれていた人は、漁師カレンダーのことをずっと知ってくれているけど、そうじゃない人達にも読んでもらいたいですよね。この本を糸口に気仙沼に興味を持ったり、漁師っていう人達に興味を持ったりしてくれるといいなと思います。
アユミ
私、この間、愛媛の宇和島で自分のお話をする機会をいただいたんですけど、漁師カレンダーの話をしたら、すごい興味を持ってくださる人たちがいて。カレンダーのことを知らなくても、なぜ漁師で、なぜ10年続けることができて、とバックグラウンドに関心を持っていただけるんですよね。
この本には、不可能と思えるようなことを実現してきた道すじが書かれてるような気がしていて。漁師カレンダーを作り続ける過程で、本当に「ど素人」と「すごいカメラマン達」との化学反応が、起きるわけがないようなことが、起きたわけじゃないですか。それって、やっぱりあらためて考えるとすごいことだと思うんです。
普通だったら無理と思う理由や、できない理由を付けちゃうけど、そうじゃない。その真逆の反応を重ねて現実にしてきた。そこがやっぱり面白いところで。そういう意味でも広く知ってもらいたいなって思います。漁師さんとか気仙沼というだけじゃなくて。
えま
やっぱ映画化?(笑)
映画の原作本になったら広くみんな読んでくれますよね!なんて、ちょっと遠い夢の話ですが。
私は、地域に暮らしている人たち、一次産業をなんとかしたいと動いている人たちにも読んでもらいたいと感じます。町おこしのバイブルというと大袈裟かもしれないけれど、一次産業って各地でどんどん疲弊して右肩下がりで、でもそこに「漁師カレンダー」はちょっと違う角度から向き合っているじゃないですか。明るい気持ちで応援できちゃうツールというか。
ー 「漁師カレンダー」という具体的な「モノ」をつくるために、みんながそこに向かって参加して力を発揮して盛り上がって、という媒介になってきたところがありますよね。人を集めてひきつけて、そして漁師さんへの意識も変えていくような。
えま
ツールもやり方も、それぞれの地域に合った形でいいと思うんですが、なんか根本の部分の考え方とか始まり方とかが、他の地域でも参考になることがあるんじゃないかなと思いました。
……僭越ながら(笑)あってます?「僭越ながら」って言葉の使い方?
ー あってます、あってます(笑)
アユミ
漁師カレンダーって、社会課題については一言も触れていないんですよね。課題にフィーチャーするんじゃなくて全部プラスのことを言ってるから、共感を得やすいところがあったように感じます。
えま
「漁業の担い手不足」とか「衰退産業だから」とか、ここに一言でもそういうテイストが入っていると、全然違うニュアンスのものになっていたと思うんですけど、一切そうした言葉は入れずに、つばき会の「陽」のエネルギーでずっと作り続けた感じですよね。
ー 本当にかっこいいんだよ!本当にかっこいいんだよ!みたいな?
えま・アユミ
そう!そう!
アユミ
ここがいいんだよ、ここもかっこいいしね。
見た!?この人のここ!みたいな。いいところ、見せたいことばっかりで。
ー 課題意識はもう大前提としてみんな既に持っているから、魅力を届くようにした形ですね。
「ど素人」をその気にさせるつばき会
ー「気仙沼つばき会」は、震災前に「おかみ達」の会として始まって、今はいろんな世代が参加していますが、参加している人たちがみんなすごく積極的な印象があります。
えま
何なんでしょうね。それぞれに本業があって忙しいのに、すごいみんなそれぞれの柔軟な動きで、自分のできることをやっていて。
アユミ
でもただの素人のボランティア集団なのに、普通に考えたらハードルが高そうな新しい企画を次々考えて、「ああやったらいいじゃない」「こうすればできる」と勢いよく話し合って、カチカチカチッと物事が決まって実現する。そこがいつもすごいなあと感じます。
ー そしてメンバーそれぞれ、分担してよく動きますよね。みんな手を上げた「やりたい人がやる」スタイルで。自発的な人が多いのかな?
アユミ
自発的にさせてるのかもしれない。私、本当は普段は苦手なことが多いんですけど、つばき会の中なら「これやります」と言いやすい。そういう空気感というか場づくりが自然にある。なんか、プロですよね。
えま
そう、素人のプロ!(笑)素人集団なのにプロみたいな。
アユミ
私自身も、私の住む気仙沼の唐桑地区の人たちも、結構表に出ないタイプの人が多いと思うんです。「ちょっと私なんて」「できません」って尻込みしたり。
でもつばき会の中にいると、なぜか自発的になれるんですよ。
― アユミさんは、2024年版はデザインまで手がけて本当に多くの役割を果たして来られましたが、普通ならそんなに自信を持ってカレンダーづくりに関われるタイプではなかったということですか?
アユミ
そうですね。だから普通なら漁師カレンダーのような企画って「いや、でも」「無理じゃないか」ってなってもおかしくないのに、そうならなかった。
漁師カレンダーは、漁師さんのことも自信をもって紹介できたし、みんなの力が交わる中で、螺旋で上がっていくイメージでやれた印象があります。
ー つばき会の不思議なほどの前向きさに、影響されますよね。……そして、本を読むと分かりますが、思いは熱く。でも意外と計画性はなく。
えま
そう、計画性はない!(笑)
でも思いと芯があるから、多くの人を巻き込んで「漁師カレンダー」のようなプロジェクトを実現できてしまう。本当に、その歩みが細かく描かれています。
いろんな人に読んでもらいたいから、読んだ人が他の人にまたお勧めして広がっていく、みたいになるとうれしいですよね。
ー 今日はどうもありがとうございました!